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2019.05.26

自家消費の課題②「逆潮流問題」【社長BLOG】

東京に自然エネルギーの森をつくる・たまエンパワー代表山川です。

次回に引き続き、自家消費5つの課題について深堀します。(➤「自家消費5つの課題」のバックナンバーはこちら
今回は、「逆潮流問題」です。

前回にも少し触れましたが、太陽光発電設備を建物の屋根上につけて建物内で消費する場合、建物の電力消費と発電容量の関係で時間帯によって「発電量>消費量」となる時があります。いわば電気が使いきれずに「余っている」状態です。

建物は6,600Vの高圧で受電している建物を想定します。
個人住宅などの低圧施設は「余剰売電制度」が10年前からあり、自家消費して余ったものを系統に逆潮流させるということが制度上認められています。一方、高圧施設は一定の負荷と屋根がある場所でも今まであまり設置が進んできませんでしたが、設置コストの低下により高圧施設の自家消費に光が当たるようになってきました。

まずはじめに、系統(グリッド)につながった施設においては、電気系統と完全に独立した形(オフグリッド)でない限りは、電力会社との連系協議が必要となります。
電力会社は、系統の空き容量や周辺の負荷状況などを加味して、逆潮流あり/なしの判断を事業者側に伝えます。もし「逆潮流禁止」となった場合は、RPR(逆電力継電器)をつけることが義務付けられています。RPRは負荷側と発電側双方をセンシングしていて、逆潮流しそうになったらパワコンの電源を切るという強制措置に踏み切ります。蓄電池をつけたとしても同様です。
前回のブログで少し書いたように、負荷が少ない割に発電量が多くRPRがついている場合は、RPRのON/OFFが頻繁に繰り返され、発電量が著しく低下してしまいます。それを回避するために、負荷分析をした上での設備設計や、出力制御装置を付けるなどの対策が必要となりますが、ここでは細かい説明は割愛します。

負荷カーブ3.png

なお、建物の負荷に対して発電設備がごく小規模(建物の設備容量の5%未満ないし発電設備容量が10kW未満)であれば、「取るに足らない範囲」と判断され、RPRの取り付けを免除されるケースもあります(「みなし低圧連系」と呼ばれます)

一方、「逆潮流あり」となった場合、蓄電池等に貯めない限りは、余った電気はその瞬間瞬間で、グリッドへ電気が流れます。10KW未満の余剰売電制度では、FITで特例で電力会社が固定価格で買い取ることが義務付けられていますが、FITでない場合は系統に垂れ流すか、その電気を相対で新電力が買い取るなどの措置をすることも可能です(但しメーターが必要)。

以上が基本的な流れですが、課題も多くあります。

まず、連系協議は設備の容量如何に関わらず、通常の高圧設備の協議費用(22万円)がかかり、6か月を要するとされています。FITの場合は50kWで低圧と高圧に分かれて、低圧は事前協議が免除されていますが、高圧の受電設備を介してグリッドに逆潮流する場合は、設備容量が50kW未満でも「高圧」扱いとなります。
そして、連系協議といっても、逆潮流の可否の判断は基本的に電力会社の裁量となっており、系統の利用状況が季節や時間帯によってどのような状態になっているのか、逆潮流をした場合、それがどのような影響があるのか、ブラックボックスで外からはわかりません。
これらの一連の協議への時間と手間と費用が掛かりすぎるため、特に高圧施設への小規模の自家消費太陽光設備の場合は、設置を見送らざるを得ないケースが発生しています。
なお、高圧設備の保安は主任技術者の選任が義務付けられており、新たに追加した発電設備は基本的には「自家用電気工作物」として主任技術者の管理すべき設備になります。どのように設備を接続するのか、保安上問題はないかなど、主任技術者との協議が必要となります。主任技術者の中には太陽光発電や蓄電池への理解が不足しているケースも多々あります。

また、VPP(バーチャル・パワー・プラント)などでの活用想定した場合、(現在はネガワット中心ですが、将来的に)高圧施設からの逆潮流も当然視野に入ってきます。
ただ、現在の電気事業法は、基本的に上流から下流の一方方向へ電気が流れることを想定した制度であり、至るところで電力がグリッドに逆潮流するようなウェブ状のシステムを想定したものではありません。
国は「再エネの大量導入・基幹電源化」と言っていますが、これらを進めようとした場合、制度的にも技術的にも社会的な意識としても、逆潮流一つとっても課題が山積しているのが現状です。
弊社は今年度より資源エネルギー庁・環境省が共同で主催するFIT後の分散型エネルギー社会構築の取り組みである「分散型エネルギープラットフォーム」事業などの企画・運営にも携わっていますが、ここでも産業用自家消費における逆潮流問題は解決すべき論点としてテーマに上がっています。
上記のような論点を整理し、新しい時代に合わせて見直していく必要があると強く感じます。

なお、個人的には自家消費太陽光は(無制限ではない)出力制御を前提に考えるべきだと思っています。その方がフレキシブルに需要に対応でき、結果的に大量導入も進むからです。
上述のようなゼロか1か(逆潮流あり/なし)の議論ではなく、「時間や天候や季節によって出力を柔軟に調整する」「それらをネットワークで制御する」という世の中に遅かれ早かれ移行せざるを得ないでしょう。
その点、日本は既に世界に大きく後れを取っているため、官も民も次の社会に向けた制度改革や技術開発を早急に進める必要があると強く感じます。

なお弊社では、自家消費の導入を検討する需要家や、自家消費の提案を行うEPCや販社への設計や補助金申請など各種支援を行っています。詳しくはこちらをご覧ください。また実際の実例も掲載しています(➤実例はこちら)
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