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2019.03.24

再エネは「国民の負担を増大」させるのか?【社長BLOG】

東京に自然エネルギーの森をつくる・たまエンパワー代表山川です。

私は仕事柄、いろんな方とエネルギーについての話をしますが、相手から「再エネに批判的な主張に対する意見」を求められることが多々あります。
私自身、異なる意見を戦わせるのは大いにやるべきだと思う一方で、そうした批判の中には単なる推論や間違った情報に基づいた意見も多々ありますので、このBLOGでは「よくある批判」について、私なりに反論を試みてみたいと思います。

まずは「FITによって賦課金の国民負担は現在2.5兆円に膨れ上がっている。国民の負担を抑制するためにこれ以上太陽光を増やすべきではない!」という批判です。

この手の主張は最近よく見聞きするようになりました。京都大学の安田陽先生もおっしゃっていますが、費用を語る場合、同時に「便益(benefit)」も見る必要があります


さて、そもそもFIT制度とはいかなる制度なのでしょうか。(FIT制度で対象になるのは複数の再エネですが、ここでは特に太陽光発電にフォーカスします)

FIT(Feed in Tariff:固定価格買取制度)は、経産省のウェブサイトでは以下のように説明されています。

"再生可能エネルギーで発電した電気を、電力会社が一定価格で一定期間買い取ることを国が保証した制度です"
"電力会社が買い取る費用の一部を、電気をご利用の皆さまから賦課金という形で集め、今はまだコストの高い再生可能エネルギーの導入を支えていきます。この制度により、発電設備の高い建設コストも回収の見通しが立ちやすくなり、より普及が進みます。"

まず基本的に、どの世界でも規模が小さいうちは産業も未成熟ですので、初期段階のモノやサービスのコストは当然高くなります。トヨタですら、プリウスの初期モデルは赤字でした。ただ、企業努力によってハイブリッド市場は拡大し、今では利益が出るようになっています。

発電設備の建設には資金が必要です。ただ、しっかり発電するかどうかわからない状態のものに対して、金融機関も当然お金を貸しませんよね?

そこで、発電した電気を「電力会社」が「固定価格」で「一定期間(20年間)」「買い取る義務」を「国が(制度上)保証」します。
そうすることで、投資回収の予見性が高まり、金融機関がお金を貸しやすくなります
お金が出てくれば、事業者が増え、規模が拡大すれば価格が下がり、さらに拡大する、という拡大サイクルに入ります。そのようにして、いわば「小さなバブル」を意図的に作り出し、産業を創出するブースター的な役割を担うのがつまり、FITという制度です。
これにより太陽光発電は日本国内で爆発的に普及し、認定は70GWに達し、価格は5年で半分に下がりました。

一方、一般的な電力市場価格は10円/kWh前後で推移していますので、電力会社はこの10円分を負担し、固定買取価格との差分を「賦課金」という形で国民が負担しています。

この賦課金は2018年現在2.9円/kWh、一般的な家庭(従量電灯A)での負担額は月額754円(東京電力)となっています。運転をしている発電所は2018年度末時点で40GW程度ですから、これから未稼働のFIT発電所が稼働し、家庭用を含む新規の発電所が普及していくのに伴って、賦課金は2030年には月額1,111円~1,296円に拡大すると予想されています。

1家庭あたり月額ですから、費用だけみると「高い」と映るかもしれません。

ただそれをもって再エネはダメとか、コスパが悪いというのは、やや乱暴な考え方だと感じます。費用以上の便益(benefit)があれば、賦課金を払う価値があるわけです。

環境省によると、再生可能エネルギーの便益は下記のように試算されています。

・CO2削減効果:2020年に6000-8000万トン-CO2(金額換算0.4~1.8兆円)
・エネルギー自給率:2020年に10-12%まで向上
・化石燃料調達に伴う資金流出抑制効果:2020年に0.8~1.2兆円
・経済波及効果:2011~2020年平均で生産誘発額9~12兆円(粗付加価値額4~5兆円)
・雇用創出効果:2010~2020年平均で46-64万人
(環境省 2011年3月)

再生可能エネルギーの便益.png
これはFIT制度施行前に環境省が試算したものですが、雇用創出効果を除いても年間10.2~15兆円の便益が見込まれています。実際は、2017年現在で既に太陽光は5.5%、再エネ自給率は大規模水力を含めて既に15.6%に達していますので、上記の予想したものより更に大幅に増えています。

FIT太陽光は2012年に買取価格40円/kWhでスタートし、段階的に価格が下がり、2019年度は14円/kWhまで低下しました。当初想定した以上に再エネの普及が進み、「賦課金なしでも元が取れるほど安く」なってきました。「賦課金」によって産業が育ち、健全に独り立ちする一歩手前まできたと言えるでしょう。
そして、賦課金は2030年頃まで増加しますが、20年経過後の発電所がFITを「卒業」するに伴い、賦課金の負担は減っていきますので、賦課金は時限付きの投資と言えます。
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https://www.env.go.jp/earth/report/h27-01/H26_RE_5.pdf

2012年に設置した太陽光はすでに7年が経過していますが、太陽光発電の法定耐用年数は17年とされています。ただ、現実的にはそれを超えた長期稼働が可能であり、事実、経産省は「太陽光を基幹電源化する」ために、30年の長期稼働を想定した試算をしています。
減価償却の終わった発電所は、ほぼゼロ円の環境価値付き電気ですので、将来世代はその恩恵を享受できます。賦課金は将来世代がクリーンで安価で安心なエネルギー源を享受するための先行投資と言えます。
このように見ると、費用だけをみて「賦課金は国民負担を増大させるのでやめるべき」という主張は、「便益」と「投資→回収」という視点が欠落した一面的なものの見方であり、議論のミスリードであると言えます。


個人的には、業界人という立場を差し引いても、月1,000円ちょっとで、再生可能エネルギーが劇的に増えて、子ども・孫たちの世代によりよい社会が残せるのなら、効果のよくわからない補助金や交付金よりよほどよいのではないかと思います。