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2019.07.01

「再エネの大量導入は可能か」【社長BLOG】

再生可能エネルギーを大量に導入しようとした場合、どうやって自然変動するエネルギーを電力網に吸収するか?がカギになります。これは、系統の柔軟性(=Flexibility)と呼ばれ、21世紀の電力システムのキーとなる概念です。今回はこの「柔軟性」について書いてみたいと思います。

大前途として、エネルギーの脱炭素化はもはや不可避であり、原発は、今も未来も推進派の期待ほど稼働せず、従って日本のエネルギー源は中長期的に再エネにシフトすべきであり、せざるを得ないというスタンスで本ブログは論じています。(無論、是非はあることは承知しています)

結論から言うと、日本の電力システムは柔軟性が乏しく、いくつかの点で抜本的な改善が必要です。カギは「系統への再エネ優先接続」「系統運用ルールの改善」「地域間連系線の活用」です。では、1つずつ見ていきましょう。

1点目は系統への再エネ優先接続です。
再エネ先進国のドイツやデンマークやスペインなどは、再エネの大量導入のため、「系統への再エネ優先接続」が法律で定められています。他方、日本は中途半端で、電源ごとの優先順位が不明確なまま、大規模火力と原発前提の系統運用を行っています。原発はエネルギー基本計画の中で「重要なベースロード電源」と位置づけられていますが、停止中の原発が稼働した時のために系統枠を残しているため、再エネを開発しても接続できないという現象が起きています。これは政治の問題です。

なお、日本では太陽光や風力などのことを「不安定電源」と呼ぶ人がいますが、これは20年前の時代錯誤な考えです。天気予報の精度が格段に向上した現在において、これらは"予測可能な"自然変動電源(=VRE)であるというのが世界の標準的な考えです。VREの変動を適切に予測し、需要と合わせていくことで多くの再エネを系統に入れていくことは可能であり、系統運用に関する制度や技術も格段に進歩しています。現にデンマークではVRE比率は50%(再エネ全体では75%)を超えています。こうした国ではまずVREを系統に接続し、その間を水力やバイオマス、ガス火力で賄っていくという考え方で系統が運用されています。「ベースロード電源」はその概念自体が必要なくなりつつあります。安くて安全な電源であると皆が信じていた時代ならともかく、高コスト高リスクで柔軟性の乏しい原発はおのずと淘汰されるでしょう。

2点目は系統運用ルールの改善です。
これについては京都大学の安田陽先生が詳しく指摘されていますが、日本の系統運用は全ての発電が最大値を発揮した時の容量が系統の50%に満たないよう、実は相当な余裕をもって運用されています。つまりガラガラです。(詳しくは安田先生のレポートを参照のこと)
一見空きがありそうなのに、なぜ再エネの接続が拒否されたり、頻繁に抑制がかかるようになったりするのか、一般の人にとっては不可解です。もちろん、時間別、季節別、有事の時等のために多層的な防御措置は必要であり、そのようにして日本の電力システムが安定的に電力を供給し続けてきたことも確かです。ただ、系統運用ルールに関しては日本のルールが絶対ではなく、海外にはもっと弾力的なルールが存在します。
自然エネルギー財団の調査によると、「日本の電力システムは、少なくとも年間の電力消費の33%以上の再エネ(VRE:22%)を容易に導入しながら、系統の安定性を維持することが可能で、再エネ比率40%(VRE:30%)でも、出力抑制をとても低く抑えつつ達成することが可能である」と、していますが、実際はもっとずっと手前で抑制ないし接続拒否が発生しており、これらについては大いに改善の余地はあると言えます。(詳しくは自然エネルギー財団のレポートを参照のこと)

3点目は地域間連系線の活用です。
日本はエリアごとに9つの電力会社に分かれているのは周知の通りです。沖縄以外は連系線と呼ばれる特別高圧の送電線でつながっていますが、これらは実はそれほど積極的に活用されていません。例えば九州で太陽光発電が盛んに発電しているときに本州に流すことでもっと多くの再エネが系統の中で運用できます。
さらに多くの再エネを入れようとした時に大きなポテンシャルを持つのは洋上風力です。例えば、北海道のオホーツク海の洋上に風力を作れば大量の電気が発電できます。ただ、北海道だけで消費しきれないため、本州に運ぶ必要がありますが、そのためには、北海道と本州をつなぐ連系線を増強する必要があります。現行の制度では送電線の増強費用は電力料金に含まれていますが、その費用負担を誰がどのくらい負担するのか議論が必要です。

上記3つの点は、課題はあるものの、本気になれば実現不可能なものではありません。

再エネ優先接続を前提として、太陽光は風力のVRE電源を可能な限り導入しつつ、最低ラインを決めた上で出力抑制をしながら、他の電源と組み合わせて柔軟に運用をしていくのが再エネ100%社会への最も近道だと思います。
系統の需要家に近い方では、リチウムイオン蓄電池はもちろん、水素、EV、ヒートポンプ、その他の蓄電・蓄熱源を組み合わせ、群制御することで系統の柔軟性はさらに向上します。
上記に加え、電力会社間の連系線の電力融通拡大と連系線の強化も必要に応じて行えば更に多くの再エネが入るでしょう。

脱炭素化に向かう世界潮流は不可逆です。向かうのは再エネ100%社会であり、そのためには、遅かれ早かれ現在の化石燃料前提の電力システムから再エネ前提の電力システムに組み替える必要があります。今後は柔軟性を高める技術や仕組みが求められるでしょう。
日本も一刻も早くそちらの世界に向かって舵を切る必要があります。