News / お知らせ

<戻る
2022.03.24

【緊急寄稿】社長BLOG~「節電しましょう」は本当に必要なのか?

こんにちは。東京に自然エネルギーの森をつくる~たまエンパワー代表の山川勇一郎です。

史上初の電力需給ひっ迫警報が発令され、「東京がブラックアウトするかも?!」とにわかに世の中が騒がしくなっていますね。

テレビでも「自分達の出来ることをやりましょう!」「節電を心掛けましょう!!」と連日報道されています。
私は太陽光発電、電力小売、自治体の脱炭素計画など、約10年間に亘ってエネルギー業界に身を置いてきました。そうした経験から申し上げると、巷でされている議論は、残念ながら的外れなものが多いと言わざるをえません。

まず、電気の世界を理解するには、最低限「kW」と「kWh」の違いを押さえておく必要があります。
「電力」の単位はW(ワット)とかkW(キロワット)で表します。「電力」とは、文字どおり「電気のチカラ」ですが、1kWが1時間継続した時の電力"量"をkWh(キロワットアワー)で表します。(詳しくはこちら「中学生でもわかるでんきの仕組み」

今回重要なのは「kW」です。電力会社全体の発電能力が、同管内の総電力需要を賄えなくなった瞬間、停電が起きます。この電力需要の最大値を「ピーク電力」と言います。

家で例えると、契約電力によってピーク電力の最大値が制限されています。40アンペア契約なら×100Vで4,000W=4kWが最大値です。電子レンジとドライヤーとトースターと電気ポットを同時に使うと、瞬間的な消費電力の合計値=ピーク電力が4kWをオーバーして、その瞬間に安全装置が働いてブレーカーが落ちます。
逆に言うと冷蔵庫のような一定の電力消費があるようなものは、1年間通じてみたら電気代はかかりますが(kWh)、瞬間的な負荷(kW)は少ないと言えます。まずこのkWとkWhの違いを押さえてください。

実際の系統(電力網)にブレーカーが設置されているわけではありませんが、東京電力管内であれば、東京電力管内全体の需要を予測して、それを下回らないように発電所全体の出力を常に調整しています。それを行っているのが送配電会社(東京電力管内では、東京電力パワーグリッド社)です。

今、問題になっているのは、季節外れの寒さで暖房需要が高まった上、先日の東北の地震で100万kWクラスの発電所が運転停止した影響で供給能力(kW)が減り、「需要>供給」の状況が生じてしまっているということです。従って、お隣の電力会社から地域間連系線を通して電気を融通してもらいながら何とかしのいでいるものの、これ以上ピーク電力が上がるといよいよ対処できなってしまう!というのが今の状態です。これに対して、「そもそも日本の電力システムってこんなに脆弱だったっけ?」という議論はありますが、その話をすると長くなるので別の機会に譲ります。

では、テレビで盛んに言われているような「電気を消しましょう!」「節電しましょう!!」というのは効果があるのでしょうか。

答えはYesであり、Noです。

まず、東京電力の発表によると、電力のピークが出るのは16-19時の夕方から夜の時間帯です。この時間は太陽が沈んで、人が帰宅して、夜ごはんの支度や家族だんらんをする時間です。電力需要が高まり、かつ、太陽光発電などの自然エネルギーの電気も期待できません。東京電力管内では柏崎刈羽でも福島でも原発は停止していますので、火力発電をフル稼働させる必要があります。この時間帯に「需要>供給」の状態が生じる危険性が高い、ということです。
一方、昼間は明るいので照明が必要ない上、晴れていれば太陽光発電も発電します。夏場のように暑くて冷房をガンガン焚く必要もないので、この時期に昼にピークが出ることはまずありません。つまり昼間に暖房の温度を下げたり、昼休みに照明を消したところで、数十円~数百円の電気代の削減(kWh)にはなりますが、「停電を防ぐ」(kW)という意味ではほぼ効果はゼロです。同様に、テレビのコンセントを抜いて待機電力をカットして(kWh)も、ピーク電力抑制にはほぼ無意味です。巷のTV報道などでは「kW」と「kWh」の対策がごっちゃになっているケースが多いので注意が必要です。今さしあたって必要なのはピーク電力の抑制(kW)の対策です。

では、「停電対策」という意味では私たちは何をすればいいのでしょうか?ここまで話すと何となくわかってくるのではないでしょうか。
効果的な方法は、「ピーク時間帯(16-19時)に、ピークを抑制するために、消費電力の大きい機器の使用を控える、または同時に使わない」ことです。
代表的なものは空調機器(エアコン、こたつ、電気ストーブ)、調理器具(電子レンジ、ホットプレート、IH、電気ポット等)、給湯機器(電気温水器、エコキュート)、電化製品(テレビ)、その他の機器(ドライヤー)などです。

例えば、ばらばらの部屋で同時にエアコンをつけたり、テレビを見たりするのをやめたり、調理を早めに行ったり、電子レンジとドライヤーを同時に使わないなどして、ピーク時間帯に電気機器の使用を控える(=ピークカット)、または使用時間をずらす(=ピークシフト)ことが大事です。
こうした基本的なポイントを押さえた上で、効果的にピークシフトとピークカットを多くの人が行えば、大きな効果を生むことができるでしょう。

上記は今すぐできることです。ただ、言い方は悪いですが一時しのぎの対症療法に過ぎず、根本的な解決にはなりません。
根本的な解決のためにはどうすればよいのでしょうか?

1つ目は、「エネルギーの消費自体を減らす」ことです。これは「寒いけど暖房をつけないで我慢する」といった省エネではなく、家の断熱性能を高めて、空調器具に頼らなくても熱が逃げないような住まいにする「我慢しない省エネ」が快適かつ最も効果的な方法と言えます。古い冷蔵庫や電気温水器を買い替えるなども効果的だと思います。

2つ目は、「エネルギーを自分で作る」ことです。最も簡単なのは太陽光発電です。戸建住宅に太陽光パネルをつければ、通常の家庭で3割から4割のエネルギーを「自給」できます。外に頼らないで済むということは、今言われているような電力需要の軽減にも貢献できます。昨今は太陽光パネルの価格も下がっているので、10年でお釣りが来ます。

3つ目は、昼間に蓄電池に電気を一旦貯めて、ピーク時に蓄電池から家に電気を供給することで、「エネルギーの自給率を高める」ことです。蓄電池やEVは昨今急速に需要が高まっていますが、災害時の安心につながると同時に電力システム全体の負荷を減らす(ピーク電力抑制)効果があります。
未来の社会では各家庭にある蓄電池やEVをネットワークにつないで、充放電を広域でコントロールすることで、エリアの需給を最適化することが可能になるでしょう。

このように平時からできることは実はたくさんあります。そしてそれは今ある技術、市販されている機器を導入するだけで十分実現可能で、さほど難しいことではないのです。

ちなみに拙宅では、太陽光発電に加えて、昨年車検切れのタイミングで車をPHEV(プラグインハイブリッド)に買い替え、車に貯めた電気を家に給電できる装置である「VtoH」を導入しました。家の電力自給率は3割→7割に向上し、近距離走行は太陽光発電の電気で賄えるので燃料費はタダ、夕方から夜にかけてPHEVから家に自動的に放電されるので、その時間帯に電気も買う必要がありません。昨今のように、政情が不安定になっても、電気代やガソリン代の上昇に一喜一憂することもありませんし、災害や電力ひっ迫で仮に停電したとしてもPHEVに貯めた電気で夜の間暮らせて、昼になれば太陽光の電気を車に充電できます。

繰り返し言いますが、それらは特別な技術でなく、導入も難しいことではありません。活用できる補助金もたくさんあります。多くの人にとって、知らないだけで手の届く選択肢です。もう既にそういう世の中なのです。

私たちは災害でも電力危機でも、危機が起きると一喜一憂してしまいます。ただ、平時から備えをしていれば、何かあっても落ち着いていられます。闇雲に「電気を消しましょう」と叫ぶのではなく、エネルギーをできるだけ自分で作って、自分で消費する形を平時から作っておくことこそが、これからの不透明な世の中を生きる上で必要なことだと感じます。

今回の電力危機は私たちにそうした問いを投げかけてくれていると言えます。これを機に、ぜひ自分の暮らしの中でエネルギーとの付き合い方を見直してみてはいかがでしょうか。


➤各種ご相談はこちら