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「ソーラーシェアリングの可能性と農地行政の現実」【社長BLOG】
東京に自然エネルギーの森をつくる・たまエンパワー代表の山川です。
ようやく、相模原市の農業委員会で農地の一時転用許可が下り、ソーラーシェアリングの設備を設置できる運びとなりました。これから設備の建設準備に入り、年明けには工事を開始できる見込みです。ここに至るまで長かった~!
昨年春から実質的に動き始め、途中、水の確保に四苦八苦したり、農振地域での土地利用の関係で当初計画を全面的に見直さざるを得なくなったり、台風で道路が崩れて通れなくなったりと、実現が危ぶまれる時期もありましたが、私たちの理念に共感し、地権者をはじめとする地域の方、相模原市農政課、農業委員会事務局、農業委員など、たくさんの方が汗をかいてくれました。感謝感謝です。
ソーラーシェアリングは等しく降り注ぐ太陽エネルギーを農作物の栽培と発電とで分け合(=シェア)います。日本の農地面積は450万haで、日本に設置されている全太陽光パネルの8倍もの発電ポテンシャルがあります。仮にそこに太陽光を設置したら、日本全体で必要とされるエネルギーを量的に満たすことができる計算となるため、エネルギー問題と農業の問題を同時に解決する有力な手段として注目されています。
ただ、やってみて強く実感したのは、農地を利用する上での制約が非常に厳しいということです。その歴史は戦後まもなくGHQの名を借りて行われた農地解放まで遡ります。地主から強制的に国が農地を買い取り、小作人に農地を分け与え、いわば個人事業主として独立させることを企図したのが農地解放です。そうした零細な農業者を軸にした農業構造を固定化するためのルールが「農地法」で、この流れが今日に引き継がれています。従って、「零細な農業者が耕作する」以外のこと(例:法人の事業参入)や、農地を農業以外の目的で多面的に利用すること(例:建物の建設)などが厳しく制限されているため、結果的に規模の拡大が抑制され、農地は零細農業者のための耕作地として守られてきました。
しかし、現実には、そうしているうちに農業は競争力を失って衰退し、農家の平均年齢は68歳を超え、農地という名の「荒廃地」がそこかしこに広がっています。こうした現実に対して、国も地方自治体も有効な手立てを打てないまま、毎年巨額の税金が「農業振興」という名の下で投入され続けています。
そうした前提条件の中でなんとか風穴を開けようと先人が切り開いてきたのがソーラーシェアリングです。ただ、実際にやろうとする場合、農地法に則って、架台の柱の部分だけを農地から「一時的に除外する」ことを当該地域の農業委員会の承認を得るという、非常にイレギュラーな措置を行わないと設備の建設すらできません。行政手続きはおそろしく面倒で、手間も時間もお金もかかります。更に近年FITの買取価格も下がっており、シェアリングを取り巻く現状は決して楽観視できるものではありません。
これを本気で進めようとするなら、行政手続きをもっと簡素化する必要がありますし、地域の農業者を含む様々な主体が参入しやすい仕組みを整える必要があると強く感じます。行政職員も決して意地悪をしているわけではなく、法律に則って手続きをしようとしているだけなのですが、法制度が時代の変化に対応できていないということの表れで、最終的には農地法の見直しに踏み込まないと根本的な問題解決にはならないと思います。そのためには、農地を含む地域の土地(=自然資源)をどのように利活用するかという青写真が必要ですが、今の為政者にそうしたビッグピクチャーを描ける人は残念ながら見当たりません。
ただ、明るい兆しもあります。
今回のFIT法の見直しで50kW以下の低圧の全量売電は廃止され、余剰売電に統合される見込みですが、ソーラーシェアリングは「地域活用電源」という位置づけで枠が残る見込みとなりました。これまで逆風の中でも全国でソーラーシェアリングを推進して来られた先人たちの努力の結晶だと思います。
地域にある自然資源を最大限活用し、農業生産とエネルギー生産を行い、それを地域の中で融通することで地域外への富の流出を防ぎ、地域の持続性を高めていくことは地方創生のいわば「王道」であり、ソーラーシェアリングは極めて有力な手段だと言えます。そこが評価されたからこそ、国もソーラーシェアリングを残す措置をしたわけです。
例えば、地域電力がソーラーシェアリングで創った電気を買い取り、それを地域内で融通する。EVに太陽光の電力を蓄電し、農業生産自体を脱炭素化すると共に、災害時は非常用電源として活用する。下部の農産品と抱き合わせで販売するなど、地域をベースにした新しい形のインフラビジネスが今後望まれるでしょう。
また現在は、日陰に強い作物をとりあえず植えている「エネルギーが主で農業が従」という状態のシェアリングが多くみられますが、本来は「農業が主でエネルギーが従」または「両方が主」であることが理想的な姿であるはずです。シェアリングに取り組む事業者の意識(特にエネルギー業界からの参入者)を変えていく必要があると感じます。
私たちは「さがみこファーム」という農業法人を設立し、下部でブルーベリーを来春から栽培を開始する予定です。地元の農業者に耕作を任せるだけでなく、農業法人を作ってまで農業生産に乗り出すのは、主たる農業を「儲かる農業にする」という意思に他なりません。
発電も農業もしっかり稼ぐことができれば、生産性は飛躍的に向上し、持続性は高まります。
理想は高いですが、そうした体制をつくるべく、これから本格的に進めていきたいと思っています。